現場で学び、思考力やプレゼン力も身に付ける。自分と大切な人の命を守るために行動できる人を育てる「防災リーダー教育プログラム」とは?

兵庫県立大学ならではの様々な学びのプログラムや取組を紹介する、『県大Menu』。皆さんは、副専攻プログラムを知っていますか?副専攻プログラムとは、所属学部以外での学びの機会を広げるため、学部の枠組を超えて設けられている県立大独自の教育課程のことです。通常の講義形式とは一味違い、フィールドワークや課題解決提案などを通して、学生一人ひとりが主体的に学ぶ内容になっています(※1)。県立大では、これからの時代にとって必要性の高い3つのテーマを用意。今回は、その一つ「防災リーダー教育プログラム」をピックアップしました。「防災」と聞くと、専門的で堅苦しいものに感じるかもしれません。しかし、このプログラムでは防災の知識だけでなく、フィールドワークなどを通して実践的に学ぶことで、仲間とのコミュニケーション能力を培ったり、社会との接点が増えたり、他の分野でも活きる力や視点を学ぶことができます。今回は、減災復興政策研究科の浦川豪教授と、プログラムを受講している理学部の田中修弥さんに、「防災リーダー教育プログラム」についてお話を聞きました。

※1:地域創生人材教育プログラム(まちづくりなど)、グローバルリーダー教育プログラム(英語・海外)、防災リーダー教育プログラム(防災・復興支援)からなる。詳細はこちら

ゲスト:浦川豪 教授(減災復興政策研究科)、田中修弥さん(理学部3年) / 聞き手:1460編集部

いざという時に行動できる人を育てる

編集部:「防災リーダー教育プログラム」とは、どのようなプログラムなのでしょうか?

浦川:防災を、座学と実践の両方から学べるプログラムです。座学では、災害時にはどんな被害が生じる可能性があるのか、その被害をできるだけ少なくするために日頃からどんな取組が必要なのか、被害が起きた後にはどのように復興していくのかなど、減災(※2)から復興までを連携させて学びます。そして、座学で身につけた知識を土台にしながら、フィールドワークを通して実践力も磨きます。フィールドワークの内容は、地域で開催されている防災関連の行事にあわせて設定することもあるため、年によって実施内容が多少異なります。過去には、尼崎市の高校生と地域住民が楽しみながら防災について学ぶ「あまおだ減災フェス」に参加し、災害時に活躍する反射板を使ったブレスレットやバンダナ、オリジナルTシャツなどを紹介する「防災ファッションショー」を、県大の学生と大学院生が協力して企画したこともありました。

※2「減災」は災害が起きる前提のもと、その被害を最小限におさえることを目的とする考え方の一方で、「防災」は災害を未然に防ぎ、被害をゼロにすることを目的とする考え方です。

田中:最近では、尼崎市立立花西小学校での出張授業も行いました。その授業では「こんな災害が起きた時、どうする?」という問いと、その問いに対する2種類の選択肢を用意しておき、どちらの選択肢が正しいと思うかを小学生の皆さんと一緒に議論しました。僕たちが一方的に教えるのではなく、一人ひとりの意見も聞きながら、防災のために必要な知識や具体的にできる備えについて学んでもらう対話型の授業です。この出張授業のように、座学だけでなく実践の場があるので、防災の知識が身に付くことはもちろん、学生同士や地域の人たちと協働するために必要なコミュニケーション能力や、イベントの内容を自分たちで考え作り上げていく力も鍛えられています。

尼崎市立立花西小学校での出張授業にて、生徒たちの前で話す田中さん。

編集部:防災の知識だけなく、社会で生きるために必要な力を養えるプログラムでもあるのですね。そもそも、私たちが「防災」を学ぶことの重要性はどんなところにあるのでしょうか?

浦川:日本はいつ被災してもおかしくない国です。これから約30年のうちに、南海トラフ地震が発生する可能性が非常に高いと言われています。普段から常に防災の意識を高く保つことは難しいのですが、いざという時に自分と大切な人の命を守れるよう、関心を持っておくことは重要だと思うんです。大切なのは、災害が起きる可能性を“想像”し、その時にできることを“創造”すること。この副専攻プログラムは、そのために必要な防災知識の習得や、フィールドワークでの実践を通じて、いざという時に行動できる人を育てています。

防災に高いハードルを感じる必要はない

編集部:田中さんは、なぜこのプログラムを受講したのですか?

田中:実は、もともと防災に関心があったわけではなく、ボランティア活動をやってみたいという動機からでした。福島県の復興支援ボランティアをおこなう学生団体「LAN」に1年生の時に所属してから防災に関心を持つようになり、このプログラムも受講することに決めました。元々、「防災」と聞くと建物の耐震化などハード面での取組を想像していたため、防災は専門家の人がやることだというイメージがあったんです。しかし、実際には被災地での傾聴ボランティアのような、「人と対話する」という比較的身近にできる取組があることを知りました。ハード面だけでなく、自分にもできるソフト面での取組があると知ってから、防災に対するイメージが大きく変わったんです。

浦川:防災には、どこか難しそうなイメージがあるかもしれません。しかし、「防災ファッションショー」の例にあるように、楽しく取り組む方法もあります。田中さんのように、活動するうちに自然と意識が芽生えていく人も多いので、はじめから防災に対する意識が高い必要はありません。

田中:それに、座学だけでなく実践の場があるからこそ「もっと学びたい!」というスイッチが自然と入るんです。例えば、防災に関するゲームを企画しようと思っても、知識がなければ企画のアイデアも出せません。もし、被災経験のある人たちを企画に巻き込む場合は、被災した過去の辛い記憶がフラッシュバックしないよう、彼らに寄り添った内容に配慮することも大切です。ワークショップや出張授業のように実践しながら学べる機会があるからこそ、座学で知識をインプットすることの重要性を実感しながら学ぶことができています。

失敗を重ねることで身につく、しなやかなつよさ

編集部:田中さんにとって特に印象的だった学びはどんなことですか?

田中:災害を経験していない「未災者」から同じ「未災者」に向けて、防災に関するメッセージを伝えることの難しさを実感しています。あるフィールドワークで、HAT神戸にある神戸市灘区の「なぎさ地区」という場所の住民の方にヒアリングを行いました。その地区には被災経験のある方も多く住まわれていて、日頃から住民同士のつながりづくりのために、お祭りやサークルなど様々な催しをされています。実際に被災された方々がやっているからこそ、防災の分野でよく言われる「つながりづくり」の重要性を、僕たちはよりリアルに体感できたんです。そこで学んだつながりづくりの大切さを伝えようと、2022年10月に行われた「ぼうさいこくたい」では語り継ぎツアーを企画しました。その企画では、自分たちがガイド役となってなぎさ地区を実際に歩きながら、過去の震災被害や、被災経験を糧に住民の方々が現在行なっている取組などを、未災者である参加者の皆さんに伝えました。

「ぼうさいこくたい」にて、語り継ぎツアーを行うゼミ生の様子。

田中:しかし、無事開催できたものの、自分たちが参加者へ伝えたいメッセージをどう届けるのかという点で、課題が残りました。僕たちは被災経験者の生の声を聞き、実際に現地の見学もしたので、震災の恐ろしさや住民同士のつながりづくりの大切さを肌で感じることができました。しかし、そのリアルな声や僕が感じたことを、また別の人に伝えるためには、情報をそのまま伝えるのでは背景にある思いまでは伝わりません。ですから、自分たちの言葉できちんと咀嚼して伝えることが必要なのだと実感したんです。そうした課題は残ったものの、そこでの悔しい思いがあったからこそ「次はこうしたい」という気持ちが生まれて、現在の活動の原動力にもなっている気がします。

浦川:自分たちで考えたことを現場でぶつけてみることで、痛い思いをすることもありますが、うまく行った時はそれだけ喜びもあります。私たち教員に頼って失敗しない道ばかりを選んでいては、何か失敗をしてしまった時に心がポキッと折れて立ち直れなくなってしまいます。そうならないよう、風が吹いても元に戻ることができる柳の木のような、しなやかな強さを身につけてほしいと考えています。

防災の分野だけでなく、社会全般で活きる力を磨く

編集部:主専攻と副専攻「防災リーダー教育プログラム」の学びでは、どのような違いを感じますか?

田中:僕は理学部に所属していますが、主専攻とはまた違った学びがあって新鮮ですし、今までになかった視点を得て興味や視野が広がっていくように感じます。また、副専攻プログラムではキャンパスの外でも活動することも多く社会の一員であることをより実感します。誰かの役に立つことができた時は、より一層活動に身が入ります。

浦川:副専攻プログラムでの学びが自身の主専攻の学びをさらに深めることにつながる学生も多いのではないかと思います。例えば看護学部の学生であれば、心のケアや地域づくりといった視点をこの副専攻プログラムでさらに実践的に学んでいるように感じます。

尼崎市立立花西小学校での出張授業に向けて、授業でリハーサルをする田中さん。

浦川:防災は、教科書で学ぶだけで完結する学問ではありません。実際の社会で起きていることだからこそ、現場に足を運ぶことはとても重要です。座学で身につけた知識を土台に、仮説を立てて現場で試し、結果を振り返ってまた試してみる。自分の頭で考え、課題を設定し、実践する力が身に付きます。これは防災の分野に限らず、社会で生きていく上で大切な力です。卒業後に防災の分野に進まずとも、この副専攻プログラムで培った力はきっと活きると思います。

編集部:最後に、「防災リーダー教育プログラム」をどんな人におすすめしたいでしょうか?

田中:僕のように、主専攻とは異なる学びの場を探している人にはぜひおすすめしたいです。キャンパスの外に出て社会の一員として活動するからこその喜びや面白さを感じられると思います。

浦川:ただ楽しいだけじゃない、努力や苦労の先にある喜びや達成感を味わいたい人におすすめしたいです。大学生は自分の時間の使い方も自由に選べます。4年間の大学生活の中で、誰かのために時間を使ってみるのも面白いと思うんです。防災だからといって、難しく考える必要はありません。やってみようというその気持ちだけで十分です。他学部の仲間と同じ目的に向かって取り組んだ経験は、きっと大きな財産になります。