
本川茉奈さん
工学部機械・材料工学科の4年生。大学では高校時代から続けている弓道部に所属し、引退までの3年間活動する。趣味はプロ野球観戦。
機械分野から医療を支えるため、工学部へ
工学部への進学を決めた背景には、実家で一緒に暮らしていた祖父の影響があります。祖父は糖尿病を患っており、毎日自分で血糖値を測ったり、グラム単位で食事を管理したりしていました。その時、祖父が使っていた血糖測定器に興味を持ったんです。ほんの少しの血液から血糖値を測定できる機械なのですが、自宅にいながら簡単に検査できることの便利さに驚きました。また、私自身も幼い頃から体があまり強くなく、病院での採血も苦手で「もっと楽に検査ができたら良いのに」と思っていたんです。そんな経験もあって、機械分野から医療に関わりたいと思うようになり、高校の研究活動の授業でも、ロボットなどの工学分野に関するテーマに取り組みました。

卒業後の進学先を考えた時、兵庫県立大学では、理化学研究所の所有する「SPring-8」(※1)をはじめ、「ニュースバル放射光施設」(※2)を使って研究ができると知りました。ここなら、祖父が使用していた血糖測定器のような、簡単に病気の検査ができる医療機器を開発するためのより精密な実験や研究ができる。そう思って、兵庫県立大学工学部への進学を決めました。
※1:兵庫県の播磨科学公園都市にある、世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設。
※2:「SPring-8」の敷地内に兵庫県が設置し、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営を行う研究施設。
一人で頑張らなくてもいいと気づかせてくれた家族の言葉
地元の大分県を出て、兵庫県の大学に通うことは、私にとって大きな挑戦でした。知り合いが全くいない環境で、一人で頑張らないといけないと思っていたので、上手くやっていけるのかとても不安だったんです。でも、家族からの「困ったら周りをたくさん頼りなさい」という言葉が、全て自分一人で解決しようと抱え込む必要はないんだと気づかせてくれました。

それに、大学にはいろんな人がいるので、ここでの出会いを大切にしないともったいないと思ったんです。もともと内向的な性格で、初対面の人と話すのは苦手だったんですが、飲食店でアルバイトを始めたり、部活に参加したり、まずは人と接する機会を増やすことで、人との関わり方を少しずつ学んでいきました。今では、コミュニケーションに対する苦手意識も少なくなり、一緒に勉強したり、困ったときには助け合ったりできる友人もできました。
医療検査を簡単にできる「マイクロシステム」との出会い
入学したばかりのころは、漠然と医療機器の開発に関わりたいと思っていましたが、工学部で専門的な知識を学んでいくうちに、「マイクロシステム」の研究がしたいと考えるようになりました。マイクロシステムとは、今までミリメートル以上のスケールで実験や検査をするために操作性や機能、精度に限界があったものを、マイクロメートル(※3)のスケールまで小さく落としこみ、軽量化や負担軽減を実現するための機械やシステム全般のことです。私が研究している医療分野に限らず、幅広い分野での活用が期待されています(※4)。医療分野で例を挙げると、ある一定量の血液中に白血球がどれほど存在しているかを調べて身体に病気がないかどうかを検査するとき、マイクロシステムを使用すれば、たった1滴の血液から検査ができるんです。私の祖父が使用している血糖測定器も、マイクロシステムの仕組みを搭載しているからこそ、微量の血液から血糖値を簡単に測定できます。これは、身体への負担が少ない、簡単に検査できる医療機器の開発に携わりたいと考えていた私にとって、ぴったりの研究テーマだと思ったんです。

私が今行なっているのは、免疫反応の検出に関するマイクロシステムの研究です。マイクロシステムによる免疫反応の検出を可能にするだけでなく、検査時間の短縮など、検査の効率性のさらなる向上を目指して、ニュースバル放射光施設で実験しながら、日々研究に励んでいます。実験は上手くいかないことも多いですが、その分、自分の立てた仮説どおりの結果が出たときはとても嬉しくて、研究を進めていく上で大きな支えとなっています。
※3:1マイクロメートル=0.001ミリメートル
※4:医療・バイオに関する分野以外にも、製造産業、高度情報通信、環境・エネルギーなどの分野でも活用が期待されている。
成功体験が、苦手なことも「やってみたい」と思える自信につながった
研究に取り組むなかで印象に残っているのは、海外の学会で論文発表を行ったことです。新型コロナウイルス感染症の影響で、現地に足を運ぶことはできなかったので、事前に撮影した発表動画を会場で流してもらうこととなりましたが、発表することへの苦手意識を克服するとても良い経験になりました。実際に人前に出て発表する必要はなかったものの、発表そのものが苦手な上に、複雑な論文の内容を英語で話さないといけなかったので、念入りに準備をして発表に臨みました。挑戦する前は、「英語での論文発表なんて自分にできるのだろうか…」と自信がなかったんです。しかし、どんなデータが必要なのかを丁寧に調べて資料を作ったり、発表台本を作ってから動画を撮影したりすることで、無事やり抜くことができました。

この成功体験のおかげで、発表することに対して、少し自信も出てきました。「苦手だから発表したくない」というより、「苦手でも発表をやってみたい」と思えるようになったんです。これは私にとって、すごく大きな成長だと思いました。
自分にはできないと決めつけず、まずはやってみることが大事
こうした学生生活での「できた!」という小さな成功体験の積み重ねが、自分を信じて積極的にものごとに挑戦する力を育ててくれました。やってみるかどうか迷って、「やってみる」という決断ができなかった昔の私と違い、今の私は、大学の先生から誘ってもらった「国際物理オリンピック(※5)」のお手伝いに参加してみるなど、もらったお誘いにはできないと決めつけずに、まずは前向きに考えてみるようになりました。迷っているということは、少なからず興味を持っているということだと思うんです。やらなかった後悔を避けるために、以前より積極的になれたのは自分にとって成長の一つだと感じています。
※5:世界各国の高校生が集い、物理の難問を解いて競う大会のこと。

大学卒業後は、大学院に進んで引き続きマイクロシステムの研究を行う予定です。同じ血液量からより多くの種類の免疫反応を検出できる方法を模索し、医療検査がより簡単になることに貢献できたらと思っています。自分自身でも「やりきった!」と思えるよう、研究にどっぷり身を置いて打ち込みたいと思います。