
赤澤春香さん
看護学部の3年生。高校時代に出会った養護の先生に影響を受けて、養護教諭をめざす。神戸商科キャンパスの部活に所属し、邦楽ロックのコピーバンドでも活動中。
不安な私に寄り添ってくれた保健室の先生
高校生活最後の文化祭でのことでした。軽音楽部のバンドでボーカルだった私はリハーサルで体調を崩して保健室で休んでいました。もし演奏会で声が出なくなったらどうしよう…と不安になっていた時に、養護の先生が私の話を丁寧に聞いてくださって、落ち着いて本番を迎えることができました。なぜかその先生には安心して話せたんです。私の溢れ出る不安を「うんうん」と聞いてくださって、自分の不安定な気持ちを言葉にできたことできっと心の整理がついたんだと思います。そんな心地よい距離感で生徒と向き合える先生のことをとても素敵だと思いました。この体験をきっかけに、私も養護教諭になりたいと思うようになりました。
看護とは何かを一から教わる日々
看護学部の1年生では、そもそも「看護」とは何かを学びながら、医学的な解剖学や生体機能学など人間の体の基本的なことを教わりました。技術面では生活援助論という授業で、寝ている患者さんの身体の体位の変え方や、動けない方の着替えの仕方など、基本的な日常生活の援助について学びました。暗記することが多くて、大学入試を終えたばかりなのにまるで受験勉強の続きのようでしたね。2年生は、記憶があんまりないくらい頭と体を使っていたように思います。初めて行く短期実習の病院でも緊張しすぎて、何をすればいいのか手探りの状態でした。

領域別実習で経験したケアのジレンマ
3回生で経験した領域別実習は特に学ぶことが多い実習になりました。看護の中でも成人領域や小児領域、母性領域などに分かれています。実習では、それを2週間毎にローテーションして全部で6領域を経験します。その中から自分がさらに勉強したい領域を選び、4回生ではその領域を集中して学んでいくカリキュラムになっているんです。
私が印象に残った領域は成人領域で、内科疾患と精神疾患が両方ある患者さんを担当しました。看護師は患者さんの体のことだけではなく、心のことも見ないといけません。患者さん自身が必要ないと考えていても、看護師の立場からはケアが必要と考えられる場合はもどかしさを感じることもありました。そこにどう折り合いをつけるのか?必要なケアに対して拒否があったときに、どう説明して納得してケアを受けてもらうか? その患者さんの思いや、今までの生活の背景まで理解した上で、かける言葉や必要なケアを考えていかないといけません。その人の痛みや苦しみに共感することも大事だし、そこを受け止めるっていうのも人間対人間という関係で大事です。さらにその上で、看護師として何ができるのかを考えなければいけません。そこがやっぱり難しいなと思います。

それは誰のためのケアなのか?
やっぱり実習の場で何かしないといけないと思うと「実習生の私ができるケア」を探しがちになります。学生ができることは体を拭いたり、傷口の洗浄であったりと日常生活の援助などがメインになります。2週間という限られた時間のなかで一人の患者さんに寄り添うためには、積極的に動かないとあっという間に時間が過ぎてしまいます。私が足浴を提案したときには、「それが患者さんに本当に必要なのかを考えなさい」と指導員の看護師さんに言われました。やっぱりどうして必要なのかを考えたら、「ケアをしたい」という私の気持ちによる独りよがりな提案だったと反省しました。
そうした難しさのなかでも、改めて分かってきた、看護の仕事の役割がありました。その一つが、患者さん自身の「全体」を見ることです。疾患だけではなく、今までその患者さんが生きてきた生活を見て、最終的にその方にどういうふうになってもらいたいのかを考えていきます。人を、心、体、また社会的な面からも理解して「全体」に関わっていくっていうところは、いろいろある看護の仕事の大切な役割の一つであり、魅力だと思います。
看護師の経験を持った養護教諭をめざして
私は養護教諭をめざして看護学部を選びました。でも、資格試験に合格したら、まずは病院で看護師として働く経験を積んでから、養護教諭に挑戦しようと考えています。今年の9月には小学校で保健を教える教育実習に参加する予定です。今までの病院実習とは異なり、学校での実習なので、看護学を学んだ学生として子どもたちと良い関わり方をしたいと考えています。3週間という短期間の中で大勢の小学生と信頼関係を築くのは、とても難しいとは思いますが、看護師も短い時間の中で人と関わって信頼関係を築いていく仕事です。その経験を活かして頑張ります。
この大学で看護を学んだことで自分の「視野」が随分広がりました。ひとえに看護と言っても専門的な手術室看護師や精神科の看護師など、それぞれに魅力を感じるポイントが違います。様々な分野の看護をめざす友人がいるので、違う視点からの話を聞くことで患者さんとの接し方ややりがいに気付かされることも多く、将来、養護教諭になったときにも広く学んだ看護の知識や経験がきっと役立つはずです。広い視野を持って、患者さんや児童生徒が抱える苦しみ、痛みを受け止めて寄り添える人になりたいと思います。
